ニュースの概要
米国の大規模な定置用蓄電(=発電所や工場に置く据え置き型の大型バッテリー)市場で、中国系電池メーカーが事業を縮小し、撤退する動きが広がっている。その空白を狙い、LG Energy SolutionやSamsung SDIといった韓国勢に商機が生まれているという。背景にあるのは、中国製の非車載用リチウムイオン電池への追加関税、連邦税額控除で「懸念国」企業の関与を制限するルール、そして企業の所有関係に対する審査の強化だ。2026年上半期の北米市場ではCATLとHithiumが出荷量で大きなシェアを持っていたが、規制の網は価格の優位を打ち消しつつある。単なる貿易摩擦ではなく、補助金の設計そのものが勢力図を変えている点が、今回の動きの核心である。
引用元: 中国製蓄電池の米国市場撤退で韓国勢に機会、規制・関税が影響(Aju Press)
分析・見解
関税よりも税額控除の条件が効いている理由
追加関税は分かりやすい障壁である。しかし、中国勢の価格競争力を本当に削るのは、税額控除の条件のほうだと考える。
米国の蓄電プロジェクトは、投資額の3〜5割近くを税額控除で回収する前提で採算を組むことが多い。この控除を受けるには、懸念国の企業が部品や資本に深く関わっていないことが求められる。控除を失えば、電池が1割安くても事業全体では大きく割高になる。
関税は上乗せコストにすぎない。だが控除の喪失は、事業計画そのものを壊す。開発事業者が中国製を避けるのは、嫌っているからではなく、計算が合わなくなったからである。
所有関係の審査が「脱中国」の抜け道をふさぐ
過去には、東南アジアに工場を置いて原産地を変える手法が使われてきた。太陽光パネルで何度も繰り返された構図である。
今回の特徴は、工場の場所ではなく「誰が持っているか」を問う点にある。合弁やライセンス契約の形を取っていても、実質的に中国企業が支配しているとみなされれば対象になり得る。
形だけの現地化は通用しにくくなった。これは太陽光の経験を踏まえた、規制側の学習の結果といえる。
韓国勢に商機があっても、安泰とは言えない
韓国メーカーは、米国で車載電池の工場を先行して建ててきた。この設備を定置用に振り向ければ、短期間で供給を増やせる。電気自動車の需要が伸び悩む局面では、稼働率の穴埋めにもなる。
ただし、課題は二つある。一つは電池の種類だ。定置用では、安全性と寿命に優れたリン酸鉄系(LFP)が主流である。中国勢はこの分野で量産の経験が圧倒的に厚い。韓国勢は車載で三元系(ニッケル・コバルト・マンガン系)に強みを置いてきたため、LFPの量産体制づくりが急務となる。
もう一つは価格である。規制で需要が移っても、単価が高ければ導入量そのものが減りかねない。
見落とされがちな視点:勝者は電池メーカーとは限らない
私が重要だと考えるのは、利益の多くが電池の外側に移る可能性である。
規制適合を証明する書類管理、系統接続の工事、運転を最適化するソフトウェアなど、周辺の役割の価値が上がる。電池は「どこ製か」を説明できなければ売れない商品になり、説明する仕組みを持つ事業者が強くなる。
日本の部材メーカーや商社にとっても、電池本体より、素材や管理の仕組みで食い込む道のほうが現実的かもしれない。
ビジネスへの影響
調達担当者が今すぐ点検すべき三つの項目
米国向けに蓄電設備や関連部材を扱う企業は、まず自社の調達先の「所有関係」を洗い出すべきである。一次供給先だけでなく、その親会社や出資者まで遡る必要がある。
次に、契約書に規制変更時の取り扱いを入れておく。税額控除の条件が変われば、納期や価格の前提が崩れる。仕様変更や解約の条件が曖昧なままだと、損失を自社で抱えることになる。
三つ目は、代替調達先の確保である。韓国勢に需要が集中すれば、納期は延びやすい。早めに複数社と話を進めておくほうが交渉力を保てる。
日本企業にとっての好機と注意点
日本企業にとっては、懸念国に当たらない供給元として評価される余地がある。電池セルでの競争は厳しいが、正極材、電解液、セパレーターといった素材や、蓄電システムの制御装置では選ばれる場面が増えるだろう。
一方で、米国の規制は政権や議会の判断で変わりやすい。特定の制度に依存した事業計画は危うい。控除が縮小された場合でも成り立つ収益構造を、あらかじめ試算しておくことを勧める。
要は、規制を追い風とみなして急拡大するのではなく、規制が動いても耐えられる体制を先に整えることである。
