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CHEMICAL LOGISTICS / 01

危険物倉庫が足りない理由を、
制度と数字から読み解く。

消防法の危険物の区分、危険物施設の種類と施設数の推移、ケミカル物流を担う主体、倉庫不足の背景を、官公庁資料と各社公式情報の範囲でひとつながりに整理します。

港湾の物流ヤードに並ぶISOタンクコンテナとタンクローリーの写真

危険物倉庫を語る前に押さえたい三つの前提

最終更新日:

本ページは官公庁の公表資料と各社の公式情報から確認できた内容だけを整理しています。個別の施設計画や法令適用についての助言ではなく、確認の取れない項目は「公式サイト参照」と表記します。

「危険物倉庫が足りない」という言葉は、物流や化学品の業界で近年よく聞かれるようになりました。ただし、この言葉には少なくとも三つの異なる意味が重なっています。第一に、消防法という法律が定める「危険物」を、同じく消防法が定める基準を満たした施設で保管する、という意味です。第二に、営業倉庫としての許可を受けた倉庫業者が、他社の荷物を預かるための倉庫という意味です。第三に、リチウムイオン電池やアルコール類のように、これまで危険物として強く意識されてこなかった品目が、実は危険物に該当するという意味です。この三つを区別せずに議論すると、数字の読み違いが起こります。

前提の一つ目は、消防法の「危険物」が、日常語の危険な物とは範囲が異なることです。消防法は、別表第一に掲げる品名とその性状を持つものを危険物と定めています。毒物及び劇物取締法の毒物・劇物や、高圧ガス保安法の高圧ガスは、別の法律の対象です。一つの化学品が複数の法律の対象になる場合もあり、その場合は法律ごとに保管や運搬の基準を満たす必要があります。

二つ目は、危険物を保管できる施設が、消防法上は「貯蔵所」の一種として厳密に区分されていることです。指定数量以上の危険物は、貯蔵所として許可を受けた施設以外で貯蔵してはならないと、消防法第10条が定めています。物流現場で危険物倉庫と呼ばれる建物の多くは、消防法上の「屋内貯蔵所」にあたります。屋内貯蔵所の基準の中身は、次のページの消防法の保管規制と指定数量で、政令の条文に沿って整理しています。

三つ目は、危険物倉庫の「不足」が、全国一律の現象ではないことです。立地の規制、建築の制約、荷主の需要の偏りが組み合わさり、地域や品目によって状況が異なります。本ページでは、公表されている統計と各社の公式情報から読み取れる範囲に限って、全体像を描きます。

消防法の危険物は第1類から第6類まで

消防法の別表第一は、危険物を第1類から第6類の六つの類に分けています。類ごとに性質が異なり、保管で避けるべき条件も異なります。次の表は、別表第一に掲げられた類別・性質と、品名の一部を示したものです。

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類別性質別表第一に掲げられた品名(一部)
第1類酸化性固体塩素酸塩類、過塩素酸塩類、無機過酸化物、硝酸塩類、過マンガン酸塩類など
第2類可燃性固体硫化りん、赤りん、硫黄、鉄粉、金属粉、マグネシウム、引火性固体など
第3類自然発火性物質及び禁水性物質カリウム、ナトリウム、アルキルアルミニウム、アルキルリチウム、黄りんなど
第4類引火性液体特殊引火物、第1石油類、アルコール類、第2石油類、第3石油類、第4石油類、動植物油類
第5類自己反応性物質有機過酸化物、硝酸エステル類、ニトロ化合物、アゾ化合物など
第6類酸化性液体過塩素酸、過酸化水素、硝酸など

出典: 消防法(昭和23年法律第186号)別表第一。品名の全体は法令本文で確認してください。

物流の現場で取り扱いの多い類は、第4類の引火性液体です。ガソリン、灯油、軽油に限らず、塗料、シンナー、溶剤、アルコール類、潤滑油など、身近な化学品の多くが第4類に含まれます。第4類は、引火点の違いによって特殊引火物から第4石油類までの品名に分けられ、品名によって指定数量が異なります。この仕組みは次のページで詳しく扱います。

第4類以外にも、物流で見落とされやすい品目があります。第2類の硫黄や鉄粉、第5類の有機過酸化物、第6類の過酸化水素や硝酸などは、化学工業や半導体産業の原料として流通しています。類が異なれば、同じ倉庫に一緒に置けない組み合わせもあり、混載や同一場所での貯蔵には別の確認が必要になります。

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もう一つの注意点は、消防法の危険物に該当する「かどうか」は、品名だけでなく性状で決まる場合があることです。たとえば、混合物は成分と性状から判断され、消防法上の区分が製品ごとに異なります。このため、荷主が提供する安全データシート(SDS)の情報を、物流事業者がどのように確認し、保管区分に反映するかが実務上の論点になります。この点はSDS管理・化学物質規制とDXで整理しています。

危険物施設の種類と、公表されている施設数の推移

消防法は、危険物を貯蔵し、または取り扱う施設を「製造所等」と総称し、製造所、貯蔵所、取扱所の三つに大別しています。貯蔵所にはさらに、屋内貯蔵所、屋外タンク貯蔵所、屋内タンク貯蔵所、地下タンク貯蔵所、簡易タンク貯蔵所、移動タンク貯蔵所(タンクローリー)、屋外貯蔵所の七つがあります。取扱所には、給油取扱所、販売取扱所、移送取扱所、一般取扱所があります。

消防庁は、各年3月31日現在の危険物施設数を、危険物規制事務調査として毎年まとめています。令和6年版消防白書の資料によると、令和6年(2024年)3月31日現在の施設数は次のとおりです。

施設の区分施設数(令和6年3月31日現在)
危険物施設の総数381,569施設
製造所5,047施設
貯蔵所(小計)260,438施設
うち屋内貯蔵所49,453施設
うち屋外タンク貯蔵所56,312施設
うち地下タンク貯蔵所71,159施設
うち移動タンク貯蔵所63,941施設
取扱所(小計)116,084施設

出典: 消防庁「令和6年版 消防白書」資料1-2-11(危険物規制事務調査により作成)。貯蔵所の内訳のうち、屋内タンク貯蔵所、簡易タンク貯蔵所、屋外貯蔵所は表を省略しています。

危険物倉庫と呼ばれる施設の中心にあたる屋内貯蔵所は、約4万9千施設です。ただし、これは化学工場や店舗、事業所の構内にある屋内貯蔵所を含む数字であり、営業倉庫として他社の荷物を預かる施設の数ではありません。物流事業者向けの危険物倉庫の件数は、この統計からは読み取れない点に注意が必要です。

同じ資料から、過去の年次の値を拾うと、全体の傾向が見えてきます。

年(各年3月31日現在)危険物施設の総数製造所屋内貯蔵所
平成12年(2000年)546,0435,14557,246
平成22年(2010年)465,6855,16452,637
平成28年(2016年)416,2345,08850,201
令和2年(2020年)396,4575,07749,613
令和4年(2022年)388,5765,05149,502
令和6年(2024年)381,5695,04749,453

出典: 消防庁「令和6年版 消防白書」資料1-2-11。単位は施設。

この表から、二つのことが読み取れます。一つは、施設の総数が平成12年の546,043施設から令和6年の381,569施設へと、約3割減っていることです。給油取扱所や地下タンク貯蔵所の減少が総数を押し下げており、危険物施設全体が縮小傾向にあります。もう一つは、屋内貯蔵所の減り方が総数より緩やかで、令和2年以降は4万9千台でほぼ横ばいという点です。平成12年からの減少率は約14%で、総数の減少率を下回ります。

この「施設数が横ばい」という事実と「倉庫が足りない」という声は、一見すると矛盾します。しかし、次の節で見るように、需要の側では危険物に該当する荷物が増え、荷主が求める立地、規模、温度管理の条件も変わってきました。施設の総数が変わらなければ、需要の変化に供給が追い付かないという状況は、十分に起こり得ます。ただし、これは筆者の解釈ではなく、あくまで公表統計と業界報道を並べたときの読み方の一つとして示すものです。

ケミカル物流を担う主体と、それぞれの役割

ケミカル物流とは、化学品を原料、中間品、製品として運ぶ物流の総称です。扱う荷姿は、ドラム缶、一斗缶、袋、フレキシブルコンテナ、液体の場合はタンクローリーやISOタンクコンテナなど多様です。担い手は、大きく四つのタイプに分けて理解できます。

化学メーカー系の物流会社

化学メーカーの物流部門が独立した会社として、グループ内外の荷物を扱うタイプです。製造拠点の近くに保管施設と輸送網を持ち、製品の特性に詳しい点が特徴です。個別の企業ごとの事業内容は、各社の公式サイトで確認してください。

危険物倉庫を持つ倉庫業者・総合物流会社

営業倉庫として他社の荷物を預かる事業者です。たとえば、日新は公式サイトで、横浜港大黒地区に危険品倉庫を保有し、通関・保管・配送までを行うと案内しています。丸全昭和運輸は、公式の物流拠点ページに、苫小牧倉庫や南海浜倉庫などの設備として危険物倉庫や毒劇物倉庫を挙げています。三菱倉庫は、公式の拠点情報で、関東や近畿の複数の配送センターに危険品の保管設備があることを示しています。これらの事業者の詳細は、主要事業者の比較表で整理しています。

タンクローリーと専用車両による輸送事業者

液体の化学品は、タンクローリーで運ぶのが一般的です。消防法は、移動タンク貯蔵所による危険物の移送に、その危険物を取り扱える危険物取扱者を乗車させることを求めています(第16条の2)。輸送事業者には、車両、運転者、洗浄設備、緊急時の対応体制を整える責任が生じます。丸全昭和運輸は、公式サイトで、危険物第4類から第6類までを扱える専用車と、タンクローリー洗浄排水処理設備を紹介しています。

海上・国際輸送とISOタンクコンテナ

輸出入では、液体を国際規格のISOタンクコンテナで運ぶ方式があります。日新は、化学品の輸送の案内で、川崎地区にタンク7基とサイロ6基、専用桟橋、ドラム充填の設備を持つと述べ、ISOタンクコンテナ国際一貫輸送サービスも別ページで紹介しています。日本通運(NX)は、危険品・液体輸送に対応するISOタンクコンテナを機材として案内しており、広島県東広島市には、高純度化学薬品(危険物・毒劇物)の留置許可を備えたシャーシプールを置いています。

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この四つのタイプは、一つの会社が複数を兼ねる場合も多く、境界は固定的ではありません。重要なのは、荷主が「保管」「輸送」「充填・小分け」「通関」のどこまでを一社に任せるのかによって、選べる事業者の範囲が変わることです。

危険物倉庫が足りないと言われる背景

物流専門メディアの報道では、リチウムイオン電池関連製品の流通増加、電子商取引の拡大、半導体関連の需要、化粧品・香料・アルコール類のような危険物に該当する商品の取扱量の増加を背景に、危険物倉庫の供給不足が指摘されています。倉庫事業者が新設した危険物倉庫が完成直後に満床になった、という趣旨の報道もあります。こうした報道は事業者の発表や取材に基づくものであり、全国の需給を統計的に示した資料ではない点に留意が必要です。

要因1:消防法の構造規制が、建物の大きさを抑える

危険物倉庫の多くを占める屋内貯蔵所には、政令第10条が定める構造上の基準があります。たとえば、貯蔵倉庫は独立した専用の建築物とすること、軒高6メートル未満の平家建てとすること、一つの貯蔵倉庫の床面積は1,000平方メートルを超えないこととされています。ただし、第2類または第4類の危険物だけを貯蔵する倉庫で総務省令が定めるものについては、軒高を20メートル未満とすることができます。つまり、一般の倉庫のように高層化して床面積を稼ぐことが、原則としてできません。

要因2:立地と周囲の空間が必要になる

政令は、住居、学校や病院、重要文化財などから、一定の距離(保安距離)を保つことを求めています。また、貯蔵倉庫の周囲には、指定数量の倍数に応じた幅の空地(保有空地)を設ける必要があります。広い敷地と、周辺に住宅や学校が少ない土地が条件になるため、都市部の近くでは候補地が限られます。

要因3:集約化で一拠点の保管量が増える

在庫拠点を大型化・集約化すると、一拠点あたりの危険物の保管量が増え、規制の基準を超えるケースがあると指摘する業界報道があります。指定数量の何倍を貯蔵するかによって、必要な空地、設備、予防規程の要否が変わるため、荷主が拠点を集約するほど、危険物倉庫の側の対応が複雑になります。

要因4:新しい品目が危険物倉庫の需要に加わる

リチウムイオン電池は、電解液が消防法の危険物(第4類)に該当するため、貯蔵には危険物の基準が関わります。消防庁は、この保管に関する規制の見直しを進めてきました。経緯はリチウムイオン電池の保管規制と動向で整理しています。

以上の四つの要因は、互いに独立ではありません。構造規制が建物の大きさを抑え、立地規制が候補地を絞り、需要側の集約化と新しい品目が保管量を押し上げます。その結果として、新設の動きが各地で起きていると報じられています。事業者が示す新設の例は、危険物倉庫の建設・防爆設備・自動化の比較表で、建設会社や設備メーカーの公表情報とあわせて確認できます。

事故の公表統計から見る保管・取扱いの重み

危険物施設の安全性は、消防庁が公表する事故の統計で確認できます。消防庁の「令和5年中の危険物に係る事故の概要」(令和6年5月公表)によると、令和5年(2023年)の危険物施設における事故は、火災事故が243件(前年226件)、流出事故が468件(前年415件)でした。重大事故は、火災事故が10件、流出事故が12件と報告されています。火災事故による被害は、死者1人、負傷者30人、損害額約78億円とされています。

同資料は、危険物施設における火災事故と流出事故の件数が、平成6年の287件から増加に転じ、平成19年以降は高い水準で横ばいの状況が続いていると述べています。危険物施設の総数が減っている一方で、事故の件数が高止まりしているという事実は、施設の老朽化への対応や、取扱いの教育がなお重要な課題であることを示しています。

この統計は、保管から搬送、充填までのあらゆる施設を対象にしており、倉庫に限った数字ではありません。数字の読み方を誤らないよう、一次資料の本文で定義(重大事故の基準など)を確認してください。

一次情報の確認先と次のページ

全体像を押さえたうえで、次は法律の中身を確認します。消防法の保管規制と指定数量では、指定数量と倍数の考え方、屋内貯蔵所の位置・構造・設備の要点を整理します。

本サイトは危険物の保管・物流に関する制度と業界を公開情報から整理したものであり、個別の施設計画・保管方法・法令適用に関する助言ではありません。危険物の貯蔵・取扱いは消防法・市町村条例等により所轄消防の確認が必要です。各社のサービス内容は変更されることがあります。