なぜ電池が危険物倉庫の主役になりつつあるのか
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本ページは官公庁の公表資料から確認できた内容を整理したものです。個別の保管計画や法令適用についての助言ではなく、具体的な当てはめは所轄の消防本部・消防署への確認が必要です。
電気自動車、定置用蓄電池、モバイル機器の普及により、リチウムイオン電池の物流は大きく増えています。電池を保管する倉庫は、ここ数年、危険物倉庫の需要を押し上げる要因として語られてきました。物流事業者にとっては、電池そのものが危険物なのか、電池に含まれる電解液が危険物なのか、保管にどの基準が適用されるのかが、実務上の大きな論点です。
消防庁の資料は、この点について、リチウムイオン蓄電池を貯蔵する場合は、その電解液が消防法に定める危険物であるため、危険物の規制に関する政令で定める技術上の基準に適合する貯蔵所で貯蔵する必要があると説明しています。つまり、電池を指定数量以上の量で保管する場合は、屋内貯蔵所などの貯蔵所として許可を受けた施設が必要になります。貯蔵所の構造基準は、消防法の保管規制と指定数量で整理したとおり、軒高6メートル未満の平家建て、床面積1,000平方メートル以下といった制約が原則です。
一方で、電気自動車の普及などでリチウムイオン電池の需要が高まる中、この基準の見直しを求める要望が出されました。消防庁は検討会で議論を重ね、令和5年と令和7年に、政令・省令・告示の改正を行いました。このページでは、その経緯と内容を、消防庁と総務省の公表資料に沿って整理します。
規制見直しの経緯:検討会から令和7年の公布まで
消防庁・総務省の公表資料から確認できる主な経過は、次のとおりです。
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 令和4年(2022年)3月以降 | 「リチウムイオン蓄電池に係る火災予防上の安全対策に関する検討会」(座長:三宅淳巳 横浜国立大学理事・副学長)が、屋内貯蔵所の基準の見直しを検討 | 消防庁危険物保安室の資料(令和5年9月) |
| 令和5年(2023年)2月 | 検討会が報告書をとりまとめ(同月15日に消防庁が結果と今後の対応を公表) | 消防庁の公表資料 |
| 令和5年(2023年)9月 | 政令の改正案と、省令の改正案が示される | 消防庁危険物保安室の資料 |
| 令和5年(2023年)12月6日 | 政令の一部を改正する政令(令和5年政令第348号)、省令の一部を改正する省令(令和5年総務省令第83号)が公布 | 消防庁の公表資料 |
| 令和6年(2024年)12月12日〜令和7年1月15日 | 「リチウムイオン蓄電池に係る危険物規制に関する検討会」等の結論を踏まえた政令改正案の意見公募(8件の意見) | 総務省報道資料 |
| 令和7年(2025年)3月13日〜4月11日 | 規則・告示の改正案の意見公募(5件の意見) | 消防庁・総務省の公表資料 |
| 令和7年(2025年)5月14日 | 改正政令(令和7年政令第191号)、改正省令(令和7年総務省令第49号)、改正告示(令和7年総務省告示第161号)が公布。公布の日の翌日から施行 | 総務省報道資料 |
令和5年12月の公布の日付と番号は消防庁の公表資料による。条文の内容と施行日は、官報とe-Gov法令検索で確認してください。
この表から、見直しが二段階で進んだことがわかります。第一段階は、検討会の報告書(令和5年2月)を受けた、屋内貯蔵所の位置・構造・設備の基準と消火設備の基準に、省令で特例を定められるようにする改正です。第二段階は、その後の検討会を経て、令和7年5月に公布された、一般取扱所や運搬の特例なども含む、より広い範囲の改正です。
屋内貯蔵所の特例:令和5年の改正で整えられた骨格
令和5年9月に消防庁危険物保安室が示した改正案の資料から、特例の骨格を確認できます。政令の改正案は、蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所について、軒高、階数、面積に関する規制を合理化するため、位置・構造・設備の技術上の基準(政令第10条)に、省令で特例を定められるようにするものでした。消火設備の基準(政令第20条)にも、同様に省令で特例を定められる規定が加わりました。
省令の改正案では、総務省令で定める危険物は、リチウムイオン蓄電池により貯蔵される第2類または第4類の危険物とされました(規則第16条の2の7関係)。さらに、一定の基準に適合する屋内貯蔵所は、政令第10条第1項の第4号から第6号まで、第11号、第12号から第15号までの規定を適用しないことにできるとされています。この特例の条件として、案には次のような項目が示されました。
- 貯蔵倉庫は、各階の床を地盤面以上に設けるとともに、床面から上階の床の下面(上階のない場合には軒)までの高さを12メートル未満とすること。
- 貯蔵倉庫は、壁、柱、床及びはりを耐火構造とし、階段を不燃材料で造るとともに、延焼のおそれのある外壁を出入口以外の開口部を有しない壁とすること。
- 貯蔵倉庫の2階以上の階の床には、原則として、開口部を設けないこと。
- 蓄電池の充電率は60%以下とすること。
- 蓄電池の貯蔵方法は、水が浸透する素材で包装し、または梱包することなどの基準に適合していること。
- 消火設備は、規則に定めるところにより設けること。
消火設備の特例としては、第二種のスプリンクラー設備(開放型スプリンクラーヘッドを用いるものに限る)、第四種及び第五種の消火設備を設置することが挙げられ、スプリンクラー設備の設置基準は、蓄電池の貯蔵方法に応じて定める基準に適合したものであることが示されています。これらは案の段階の記述であり、確定した条文の内容は、公布された省令で確認する必要があります。
消防庁の検討会報告に関する公表資料は、欧米と同等以上の放水性能を持つスプリンクラー設備があり、貯蔵方法も同等であれば、屋内貯蔵所の面積・階数・軒高の制限を緩和しても安全性は確保されるという趣旨の結論を示しています。海外の保管基準を参考に、設備と貯蔵方法で安全を担保する考え方に立つ点が、今回の見直しの特徴です。
令和7年5月の改正で加わった項目
令和7年5月14日に公布された改正について、総務省と消防庁の資料は、主な内容として、リチウムイオン蓄電池の取扱い等に係る規制の見直し、製造所及び屋外タンク貯蔵所の基準に係る見直し、航空機に給油する場合の危険物の取扱いの技術上の基準の見直し、指定講習機関が実施する保安講習の手数料の見直しを挙げています。リチウムイオン蓄電池に関する部分を、資料の記載に沿って整理します。
政令の改正(令和6年12月の概要資料)
- 危険物を用いた蓄電池を製造し、または充電し、もしくは放電する作業を専ら行う一般取扱所について、位置・構造・設備の技術上の基準に、総務省令で特例を定められるようにすること(政令第19条関係)。
- 同じ一般取扱所などに設置する消火設備の基準に、総務省令で特例を定められるようにすること(政令第20条関係)。
- リチウムイオン蓄電池に用いられる電解液のように、運搬の際に漏れ、あふれ、飛散するおそれが少なく、防火上支障がないものとして総務省令で定める場合は、運搬容器に収納せずに積載できるようにすること(政令第29条関係)。
省令・告示の改正(令和7年3月の概要資料)
- リチウムイオン蓄電池により貯蔵される危険物のみを貯蔵し、または取り扱う屋内貯蔵所の基準の特例を定める。一定の安全基準に適合する蓄電池を貯蔵すること、蓄電池の充電率に応じて延焼拡大防止措置(スプリンクラーまたは遮へい板の設置等)を講ずること、屋内貯蔵所とその他の部分を区画すること、屋内貯蔵所である旨を表示することなどが示されています。
- 一般取扱所についても、蓄電池を製造し、組み立て、または充電・放電する作業を行う施設の基準の特例を定める。
- 消火設備について、第二種のスプリンクラー設備を一定の性能に適合するように設置することなどの特例を定める。
- 屋内貯蔵所において、水が浸透する素材(段ボールなど)で包装または梱包する方法、キュービクル式の設備により貯蔵する方法、一定の耐火性を有する箱に入れる方法のいずれかで貯蔵されるリチウムイオン蓄電池は、容器に収納せずに貯蔵できるとする。
- リチウムイオン蓄電池の運搬においても、同様の方法による場合は、運搬容器に収納せずに積載できるとする。
- 屋内貯蔵所の架台が特定の構造等を有する場合は、堅固な基礎に固定しなくてもよいこととする。
- 告示で、蓄電池の基準、遮蔽板の基準、スプリンクラー設備の水源の基準、蓄電池設備を収納する鋼製の棚の基準などを定める。
これらの資料は、改正の概要を示すものであり、条文の細かな要件(どの程度の充電率でどの措置が必要か、蓄電池の安全基準とは何か)は、公布された省令・告示で確認する必要があります。いずれの改正も、公布の日の翌日から施行されました。
事故の公表資料:電池搭載製品の事故件数
リチウムイオン電池の火災について、倉庫に限った公的統計は、本サイトの確認した範囲では見当たりません。参考になるのは、製品評価技術基盤機構(NITE)が公表する、リチウムイオン電池搭載製品の事故の統計です。NITEの2026年7月15日付の発表によると、2021年から2025年までの5年間にNITEに通知された製品事故情報の中で、「リチウムイオン電池搭載製品」の事故は2,140件あり、製品別ではモバイルバッテリーの事故が最も多く発生しています。事故の件数は、春から夏にかけて気温の上昇とともに増加する傾向を示し、8月にピークを迎えるとされています。
この統計は、消費生活用製品安全法に基づき報告された重大製品事故と、事故情報収集制度で収集された非重大製品事故を含みます。また、調査中の事故や、原因は特定されていないがリチウムイオン電池に起因した可能性があると推定される事故も含まれます。したがって、倉庫での保管中の事故だけを抜き出した数字ではありません。倉庫の保管量や保管方法の議論には直接使えませんが、電池そのものの火災リスクが、年々高く認識されていることを示す一つの手がかりです。
消防庁の危険物に係る事故の統計は、全体像のページで紹介したとおり、危険物施設の火災と流出の件数を公表しています。電池に特化した件数の区分は、同資料の概況の範囲では示されていません。
EV普及と回収物流:保管の需要が広がる場面
電池の物流は、新品の電池を工場から納品先へ運ぶ流れだけではありません。電気自動車や定置用蓄電池の普及に伴い、使用済みの電池を回収し、再利用やリサイクルへつなぐ流れも増えていきます。使用済み電池は、劣化や損傷の程度が一つ一つ異なるため、新品とは別の管理が必要になります。保管の段階では、電池の種類、状態、梱包の方法、保管量に応じて、危険物としての扱いや、他の法令(廃棄物処理法など)の適用が関わります。
国の施策としては、経済産業省や環境省などの関係省庁が連携し、リチウムイオン電池の「3つのC」(賢く選ぶ、丁寧に使う、正しく捨てて資源循環)という呼びかけを行っています。環境省は「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」を策定しており、発火事故の防止と資源循環の両面から取り組む方針を示しています。回収・リサイクルの産業構造は、関連サイトのバッテリーサイクル・レポートが、蓄電池の市場や技術は蓄電産業業界レポートが扱っています。
物流の観点では、新品の電池を扱う倉庫と、回収・保管・仕分けを行う拠点とでは、必要な設備も運用も異なります。消防庁の改正が、屋内貯蔵所の一般的な制約を、一定の条件のもとで緩和する方向であることは、保管の選択肢を広げる可能性がありますが、緩和の条件(充電率、延焼拡大防止措置、貯蔵方法など)を満たせるかどうかは、荷主と倉庫事業者が個別に確認する事項です。
公表資料から読み取れる、確認の観点
ここまでの公表資料から、リチウムイオン電池の保管を検討する際に、事業者間で確認することになる観点を整理します。個別の判断は行わず、資料に現れた用語を並べたものです。
- 電池の種類と状態:新品か使用済みか、安全基準への適合の有無。令和7年の省令概要は「一定の安全基準に適合する蓄電池を貯蔵すること」を特例の条件に挙げています。
- 充電率:令和5年の案は充電率60%以下を、令和7年の概要は充電率に応じた延焼拡大防止措置を示しています。
- 梱包・貯蔵方法:水が浸透する素材での包装・梱包、キュービクル式の設備、一定の耐火性を有する箱などが示されています。
- 消火設備:スプリンクラー設備の設置と、その性能・水源の基準。
- 施設の区分:屋内貯蔵所か一般取扱所か、建築物の一部に設ける場合の区画と表示。
- 倍数と許可:電解液の量から見た指定数量の倍数と、所轄の消防による許可・確認。
これらの観点を、倉庫事業者の公表情報と、建設・設備の公表情報に照らして読むと、事業者に何を問い合わせるべきかの見当を付けやすくなります。
一次情報の確認先と次のページ
- 総務省報道資料「危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令(案)等に対する意見公募の結果及び改正政令等の公布」(令和7年5月14日):総務省
- 消防庁危険物保安室「危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令(案)等について」(令和5年9月):総務省(PDF)
- 消防庁「危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募」(令和7年3月):消防庁(PDF)
- 改正の概要資料(別紙1):総務省(PDF)
- NITE「『夏バテ(夏のバッテリー)』にご注意を」(2026年7月15日):NITE(PDF)
- 環境省「リチウムイオン電池総合対策パッケージの策定について」:環境省
保管の規制を押さえたところで、最後に、この分野で働くための資格と、安全に関わるキャリアを資格・安全・キャリアで整理します。
